管理組合発足当初より、「安心・安全・資産価値向上」をモットーに精力的に組合活動を行っている民間マンション・Brillia多摩センターの第1回大規模修繕工事が始まりました。着工までの様々な取り組みにより、組合にとって理想的な形での工事へと導いたその「あゆみ」について紹介致します。
【建物概要】
●所在地/多摩市鶴牧3-2●竣工/平成19年1月(築14年)●構造/鉄筋コンクリート造・鉄骨造(自走式駐車場)●規模/地上18階・地下1階 A~F棟(住戸)、G棟(店舗・共用施設)●総戸数/530戸●施設/ゲストルーム、ライブラリーラウンジ、ミュージックスタジオ、パーティールーム、キッズルーム、スタディルーム、エクササイズスタジオ等●売主/東京建物㈱/●設計施工/㈱淺沼組●管理委託先/㈱東京建物アメニティサポート
着工までの経緯
入居時に売主が作成した長期修繕計画がありましたが、十分な内容とは言えず、第2期の理事会にて外部専門家に委託し、独自の長期修繕計画を策定しました。それを受け、第5期の理事会で修繕積立金の値上げを実施し、第1回大規模修繕に向けた下地作りを行いました。
本格的な取り組みは、第9期からとなります。もともと理事会の諮問委員会として自主防災管理委員会と建物設備委員会がありました。この建物設備委員会を中心として大規模修繕工事の検討を行いました。
まずは、第9期理事会で長期修繕計画の見直しを行いました(2017年3月作成)。その中では第13期(2019年)工事開始予定でしたが、東京五輪が2020年に開催されることから、労務費や資材高騰の懸念があったため、工事開始を2年延期することとし、第11期理事会にてスケジュールを設定し(表1参照)、総会にて承認を受けました。
年 | 月 | イベント | 内容 |
---|---|---|---|
2018年 | 5月 | 第11期通常総会 | 工事時期延長承認 |
2019年 | 5月 | 第12期通常総会 | 発注方式承認 |
2020年 | 5月 | 第13期通常総会 | 実施仕様・工事範囲決定・承認 |
3月~8月 | 施工会社選定(1次下請け) | ||
9月 | 第14期臨時総会 | 第1回大規模修繕工事実施承認 | |
2021年 | 1月 | 工事着工 |
組織体制
はじめは専門の大規模修繕委員会を設けることを考えましたが、修繕委員会を作ると今ある建物設備委員会のミッションと重複するため、特に専門委員会を設けず、代わりに一級建築士である副委員長を中心とし、建物委員長とサポーター(旧理事長)のコアメンバー3人で予め方針を固めて、従来の建物設備委員会の中で、スケジュールを着実に推進していくこととしました。また理事会の三役(理事長+副理事長3名)も11期から14期までほぼ固定できたため、継続性を持たせた組合運営とフォロー体制を構築する事ができました。
発注方式の検討と決定
2018年9月ごろから発注方式毎に見積を依頼しました。①工事会社が設計施工を行う「責任施工方式」、②修繕専門の設計事務所に建物調査診断・修繕設計・工事監理を依頼する「設計監理方式」、③管理会社が元請となり、設計・施工・監理の全責任を負う「総合元請方式」の3つの方式から、①はカシワバラ・コーポレーション、②は翔設計、③は東京建物アメニティサポートを選定し、11月、12月にプレゼンを依頼しました。その結果、コストの透明性の確保、品質確保、工事に関わる責任所在の一元化等の理由から総合元請方式(管理会社:東京建物アメニティサポート)に決定、第12期通常総会に諮り承認を得ました。
修繕仕様の決定
修繕工事の仕様を決定する上での基本方針は、①長期修繕計画の予算を下回ること。②仮設足場が必要な工事を優先的に実施すること。③建物の基本性能と資産価値の維持・向上とし、第13期で決定しました。その内容は表2に示す通りです。
工事項目 | 工事内容 |
---|---|
仮設工事 | 現場事務所、仮設足場 |
下地補修工事 | 外壁タイル、コンクリートのひび割れ、浮き等の補修 |
外壁仕上げ工事 | タイル面の洗浄、外壁塗装面の洗浄、塗装重ね塗り |
鉄部等塗装工事 | 屋上、バルコニー周り、廊下PS扉塗り替え |
シーリング工事 | 外壁目地や建具周りのゴム状の防水剤の打ち替え |
屋上等防水工事 | 屋上防水の重ね塗り(A棟のみ全面工事) |
外部床防水工事 | バルコニー床シートの張り替え、排水溝の塗り替え |
その他建築工事 | 各所クリーニング、エアコン室外機移動他 |
1次下請施工会社の選考手順と決定
①2019年10月一次選考実施(書類審査)
予め会社概要や大規模修繕工事の実績等の選定基準を設けた上で業界専門新聞にて募集した結果、15社の応募がありました。元請会社となる東京建物アメニティサポートの判断基準(資本金、規模、経営事項審査報告書の評点、過去の取り組み実績等)を参考に元請会社と理事会双方の合意のもと、8社を見積依頼会社として選出しました。
②2020年3月から7月二次選考(概算見積金額による選定)実施
一次選考により選定した8社に対し、現場説明を実施したうえで見積要領書を交付し、現地調査、質疑応答を経て各社に見積依頼を行い、東京建物アメニティサポートに対し7月に見積書が提出されました。各社の見積内容を精査・レベリングし、提出金額が予算内に収まっていた上位2社に絞り込みました。
③2020年最終選考実施
8月23日に組合員参加型の公開プレゼンテーションを行い、2社より会社概要、施工実績、本工事への取り組み姿勢、現場代理人予定者の紹介、工事内容や手順、付加価値提案等について説明を受けました。同日合理化提案を折り込んだ最終価格が提示され、元請となる東京建物アメニティサポートはこれらの内容を総合的に判断し、1次下請施工会社として淺沼組を選定しました。
修繕積立金との関係
工事完了後(2022年3月末)の修繕積立金予定概算金額は10億円。今回の総工事費(予備費含)が概算7.4億円(直工費にすると約98万円/戸)であるため、残高は概算で2.6億円となります。一般的に修繕積立金の1年分相当の残高が妥当であると言われておりますが、今回は2年分以上を残す事ができました。これは、早い段階で資産運用を行い、長期修繕計画および修繕積立金の見直しを実施していた事に因るものと考えられます。
工事説明会と広報活動
工事説明会はコロナ禍での開催となるため分散して実施しました。2021年1月11日(月・祝)に3回、1月13日(水)に2回行い、延べ150名の参加がありました。また、参加できなかった居住者に対しては、E棟メインエントランス通路にビデオを準備し、1か月程度上映しました。
工事説明掲示板はE棟メインエントランス1台、D棟エントランスに1台設置し、工事に関する情報、洗濯物情報(QRコードで自宅の状況が分かる)などを掲示しております。また、大規模修繕工事専用のWEBサイトを開設し、洗濯物情報、工事の工程表、よくある質問とその回答が閲覧できるようになっています。
工期・作業時間・現場事務所
工期は、2021年1月15日着工、同年12月14日引き渡しの予定です。作業は原則、月曜~土曜日の8時30分~17時30分となっており、働き方改革の一貫もあり、工事が順調に進んでいる場合は土曜日の休工も認めております。現場事務所はバイク置き場の利用が少なかった事から利用者の方のご協力を得て2ブロックを提供し現場事務所としました。
施工管理体制
居住者からの各種問い合わせは、工事現場事務所内の居住者問い合わせ窓口に一本化しております。元請である東京建物アメニティサポートの現場代理人、1次下請業者である淺沼組の現場担当者が常駐管理し、管理組合(建物設備委員会)と月例会議を開催し、工事進捗の報告、協議事項などを議論しております。また、工事の元請業者が日常の管理会社であることから、管理と工事の相互連携による工事の円滑化促進も図れております。
総括
第1回大規模修繕工事までのあゆみを改めて振り返ると、全体的にスムーズに合意形成を図る事ができたと思います。その大きな理由は、①早くから(3年前から)準備を始めた。②委員長はじめ経験豊富なコアメンバーを中心に組織体制を確立できた。③コアメンバーをサポートする、理事長他三役、建物設備委員会メンバーの人材に恵まれた。④早いうちから発注方式毎に調査・見積を開始し、相場観を得ることができた(2019年)。⑤ちょうどよい時期に大規模修繕工事の見学ができた(アルテヴィータ、D’グラフォート多摩センターガーデンサンクタム)。⑥月刊刊行広報紙「きらり通信」で進捗状況を丁寧に組合員に報告した。等であったと思います。これから大規模修繕工事を控える民間マンションの皆様の参考になればと思います。
◆◆◆専門家のコメント◆◆◆
この大規模修繕工事の取り組みで特筆すべきは、早くも入居2年目で長期修繕計画を見直し、修繕積立金を改訂している事でしょう。さらに、推進するコアメンバーを固め、作業期間中の理事会三役を固定するなど後戻りしないで済む体制を作っています。「総合元請け方式」というユニークな形式となりましたが管理会社と友好的な関係を保ちつつ、業務の一部を直接発注するなどの実績を積み上げてきた管理組合活動が居住者の合意を得られた要因だと思います。
(一級建築士・マンション管理士 橋口房雄氏)
出典:多摩マンション管理組合連絡会NEWS
第33号(2021/3/31)から引用、編集