2024年4月に第1回大規模修繕工事が完工した、ライオンズ聖蹟桜ヶ丘パシーナ管理組合の大規模修繕工事の準備段階から発注方法の検討、業者選定、総会決議、実際の工事までの一連の取組について紹介します。

【建物の概要】

●所在地/多摩市連光寺1-2-1●竣工/平成19年2月●構造/鉄筋コンクリート造・鉄骨造(自走式駐車場)●規模/地下1階~16階A~F棟、駐車場棟●総戸数/493戸●施設/ゲストルーム、集会室兼パーティールーム、キッズルーム、スイングガーデン、ウォーターガーデン、風見テラス、キララカフェ、クラブスイング、モーター工房等●施行/佐藤・川田・若築建設共同企業体●売主/㈱大京●管理委託先/㈱大京アステージ

組織体制

 第9期に大規模修繕委員を募集したところ、当該マンションを熟知した4名の理事長経験者が集まり、当期の通常総会にて理事会の諮問機関として承認され、大規模修繕委員会として本格的にスタートしました。その後、理事会を退任後に委員会に参加された理事長もおり、更にパワーアップしました。施工業者の選定時からは、理事長の他に理事会から数名が選任されて加わる体制となり、専門的な組織である委員会と年次業務を遂行する理事会の連携が更に強化、理想的な運営体制を確立することができました。

発注方法の検討と決定

 マンションの規模や特徴を考えて「施工品質の確保」と「支出の抑制」を両立するには、どのような発注方法が適しているのか、長期間にわたり議論がおこなわれました。
 管理組合として売主および管理委託先を考えると、同一グループである大京穴吹建設に責任施工方式で発注することが、最善なのかという議論から始まりました。1年以上続く議論の結果、まずは概算見積を提出してもらい、設計仕様やスペックの違いによる見積金額について説明を求め、判断することになりました。その結果は、管理組合が求める工事内容と大きく乖離しているものでした。そこで、大京穴吹建設の責任施工方式での発注は、一旦議論から除外して、一般公募により発注方式を選択する方向へ転換しました。
 しかし、設計監理方式は、コンサルと施工会社のつながりを排除するための費用を掛けても、完全にリスク回避することは難しく、つまり談合のリスクを排除できないという問題点があります。2017年1月27日に国土交通省から、発注者たる管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントの存在が指摘されていると、異例の通達が出されたこともあって、信頼できるコンサルを見つけることが困難と判断し、設計監理方式は議論から除外されました。
 そこで、コンサルと施工会社の責任範囲が明確に分かれており、施工品質が確保でき、候補会社の数だけプランが提案されることで、要望を満たす選択範囲が広がる可能性がある、プロポーザル方式を検討することになりました。検討を重ね、当マンションの大規模修繕工事には最も適切との判断に至り、2021年9月に臨時総会を開催し、さくら事務所に施工業者選定支援業務を依頼すること、プロポーザル方式を採用することで、組合員の承認をいただきました。

業界紙による公募開始

 2021年10月、業界紙である建通新聞(東京版・神奈川版)の紙面およびWEBにて公募が開始されました。締切までは2週間、プロポーザル方式による選考なので、通常の公募より応募が減ることは想定していましたが、9社の応募がありました。マンションの規模を考えて、応募して欲しいと考えていた幾つかの会社は、全て応募していただけていたので、構想どおり次のステップに進むことができました。

施工業者の選定

 11月の委員会で応募があった9社についての書類審査を開始しました。業者選定支援を依頼している、さくら事務所の助言を参考にしながら、委員会が決定します。この時点では、会社規模と実績から難しいと思われる3社を除外し、6社に会社紹介を依頼することとなりました。しかし、1社が辞退を申し入れてきたため、12月に5社による会社紹介プレゼンを実施しました。
 各社のプレゼンは全て動画撮影し、YouTubeの限定公開を利用して委員会の中で情報共有するとともに、後からでも確認できるようにしました。年が開けた2022年1月の委員会で、工事見積を依頼する会社を選定する議論が行われ、会社概要・技術力・品質管理・居住者対応などから、4社に絞り込みました。見積に必要となる竣工図面や建物診断などの関連資料を提供し、工事提案および見積提出の依頼を行いました。
 4社の初回マンション訪問は1月末の同日に設定、各社が鉢合わせしないように調整して、屋上や特別な方法で足場を組む必要がある場所など、マンションの特徴のある場所を中心に案内し、おおよその要望を説明しました。見積提出期限の4月30日までに、各社が個別にマンションを確認に来た際にも、重複しないよう委員会が日時調整を管理しました。どこの会社が調査に来ているか判らないように、社名が入っていない服装で来訪し、マンションの入館証をつけていただきました。どのような時期に、どれくらいの時間と人数をかけてマンションを確認し、見積を作成していくかなどの途中プロセスも委員会で記録し、選定の参考にしました。各社から管理組合に要望があれば全面協力して、各社が最良の見積書が提出できるように配慮しました。
 5月15日、午前2社、午後2社と見積プレゼンを実施、前回と同様に全て動画撮影を行い、後からでも確認できるように準備しました。プロポーザル方式の特徴で、提出された見積の仕様は各社異なるので、仕様と金額の詳細を比較していくのは後日となります。したがって内容に注力できるため、プレゼンの提案内容が調査に基づいて作成されたものなのか、一般的な提案をアレンジして作成したものなのか、プレゼンに参加した委員はすぐに把握できました。
 5月27日、比較のため4社の仕様や金額を一覧表にまとめました。といっても同一仕様ではないので単純に比較はできないため、さらに、同一条件に近づけた場合の比較表も作成して検討して、2社に絞り込みました。最後の2社の選定が難航したため、7月10日に、さらに詳細の比較表をもとに協議し、最終的に満場一致で建装工業を選定しました。

臨時総会等

 施工方式にプロポーザル方式を採用する議案説明については、事前に委員会で動画を作成し、YouTubeを利用して組合員に限定公開を行い、質問などは事前に受付けとしました。臨時総会当日は、議案説明動画の再生と質問回答配布を行い、追加の質疑応答となりました。また、工期延長が確実となった時点で、工事予備費の増額の承認を得るための臨時総会が1回開催されました。

修繕積立金との関係

 第1期に管理費の内訳を精査し、削減される項目と金額を算出して、居住者の負担は変わらず、修繕積立金の㎡単価をアップする議案を提示するなど、初回の通常総会から、修繕積立金の㎡単価に目を向けてきました。その後、各種の契約内容や仕様を細部まで精査した結果、第4期に、第1回目の大規模修繕工事が実施できる予算に近い金額にまで㎡単価をアップしました。さらに、物価状況や消費税の動向を踏まえ、第7期に再度見直しを行い、修繕積立金を改定しました。
 これに加えて、第1期の通常総会から、マンションすまい・る債の購入などの資産運用、管理費の改定や一般会計剰余金を特別修繕会計に繰り入れるなど、大規模修繕工事に向けての資金準備を始めていました。一般的に大規模修繕工事を実施後の残高は、修繕積立金の1年分相当が妥当と言われておりますが、今回は約4年分を残す事ができました。

工事説明会と広報活動

 工事説明会は、世帯数の約半分に該当する定員250名の関戸公民館ヴィータホールを借用して1回開催しました。
 工事専用掲示板を、メインエントランスに1台、サブエントランスに1台設置して、工事の工程表や案内文書、製品や色のサンプル、洗濯物情報などを確認できるようにしました。また専用のWEBサイトでは、洗濯物情報、工事の全体および月間の工程表、よくある質問や回答などを閲覧でき、外出先でも大規模修繕工事の状況が確認出来るようになっています。また、管理組合として、マンション広報紙「パシーナ便り」を通じてタイムリーな情報発信に努めました。

工期・作業時間・現場事務所など

 工期は2023年1月着工から2024年4月末竣工まで約1年3ヶ月です。働き方改革の一貫もあり、作業は原則、月曜日から土曜日(ただし土曜日は隔週)、8時30分から17時30分です。現場事務所や主となる資材置場、廃材置場、作業員の休憩室などは中庭に集結しました。敷地が広いため作業効率を考慮し、中庭から離れた場所に、廃材置場と仮設トイレを2ヶ所設置しました。
 工事用車両の駐車場については、マンションの空き駐車場スペースを月10台提供しました。これにより外部駐車場利用費用を見積から除くことができました。

施工管理体制

 居住者からの問合せは、工事現場事務所に一本化しました。事務所に出向ず自宅からも問合せできるように、専用の電話番号を設けました。また、各工事専用掲示板前に専用ポストを設置して、ご意見や要望を書面でも投函できるようにしました。
 毎週火曜日に施工会社である建装工業と、監理を委託しているさくら事務所の打ち合せが行われ、管理組合(理事会および大規模修繕委員会)に毎回報告書がメールされ情報共有しました。毎月最終土曜日には、管理会社も加わり月例会を行い、工事の円滑化を図りました。

総括

 施工方式の決定まで議論に時間を費やしまたが、決定後はスムーズに進んで合意形成を図ることが出来たと思います。その大きな要因としては、①当該マンションを熟知した理事長経験者が主軸となり委員会組織を確立できた。②第1期から修繕積立金の改定等により、準備したことで資金的な心配がなかった。③同時期に竣工したマンションの大規模修繕工事を見学できた。④大規模修繕工事成功に向けて、施工・コンサル・管理組合および管理会社の連携ができた。が挙げられると思います。

出典:多摩マンション管理組合連絡会NEWS
第43号(2024/7/7)から引用、編集