多摩センター駅西側、京王線と小田急線の間に建つ大規模民間マンション「アルテヴィータ管理組合」が第1回大規模修繕工事に着手しました。多摩センター地域の大規模民間マンションでは初の大規模修繕となるため、注目を集めております。今回は、専門委員会の立ち上げ、当初の長期修繕計画や資金計画の見直しをはじめ、コンサル会社・施工業者の選定、総会までの経緯など着工前の準備と、その進め方についてお話を伺いましたので報告させていただきます。

【建物概要】

●所在地/多摩市鶴牧1-17●入居開始/平成16年3月(築13年)●構造/鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)、鉄筋コンクリート造(RC造)●規模/地上15階地下2階(一部地上16階、一部地下1階)、A~Eの5棟で構成●総戸数/368戸●付属施設/ゲストルーム2室、コミュニティリビング、シアタースタジオ、エクササイズスタジオ、キッズスタジオ、防災センター等●駐車場/295台収容(機械式291台、平置き4台)●管理委託先/日本管理㈱●管理組合理事会/理事15名、監事2名、計17名●施工業者/㈱五洋建設

着工までの経緯・組織体制の検討

 まず、理事会の下部組織の専門委員会として、「修繕委員会」が第10期理事会(築9年頃)にて立ち上げられました。これは多摩マンション管理組合連絡会の常光氏に、理事会にアドバイザーとして出席頂き、「デベロッパーの新築分譲時の甘い長期修繕計画の抜け項目」などについてアドバイスをいただき、その後理事会内で協議が重ねられ、修繕委員会の必要性が認識されました。
 こうして、毎年輪番制で顔ぶれが変わってしまう理事会と異なり、5年に及ぶ長期プロジェクトチーム体制がとられました。
 輪番制の理事・理事長は継続性が乏しいため、各期の理事メンバーのうち修繕担当理事は修繕委員会を兼務し、理事会との連携を図るように体制を整えました。ここでは理事長と修繕委員長の信頼関係を築く事がとても大切です。修繕委員会は理事会に工事の問題点などを進言し、理事会は住民向けの臨時総会での合意形成に向けて、必要な措置を図ります。そして、新任理事長は、積極的に修繕委員会の会合の場にも出席し、分からない事は質問し、理事会に持ち帰るように徹底しました。

コンサル会社の選定

 第11期(築10年頃)理事会にて、コンサル会社選定を行いました。5社がプレゼンテーションと相見積もりに参加し、総会決議で㈱東京建物リサーチセンターに決定し、コンサルが開始しました。
 コンサル会社への費用については、必要の有無も含め様々な意見があると思いますが、施工業者選定の際に、適正なコストでの選定が実現できれば、コンサルコストは十分吸収出来るのではないかと思います。また、オプションで依頼した「新・長期修繕計画のシミュレーション作成」についても、後述の「修繕積立金の財源問題」において非常に有効であったと思います。

施工業者の選定

 第12~13期(築11~12年頃)理事会にて、コンサル会社とともにマンション管理新聞など業界専門誌紙面上にて、業者の公募を開始しました。12業者が名乗りをあげ、それが、最終3社へと徐々に絞られていき、3社による理事会・修繕委員会合同の最終プレゼンテーション、その後の総会決議を経て、千葉のティーエスケー社が選定されました。
 なお、12社の相見積もりで、見積もり金額の最大差は、戸当たりで20万円以上でしたので、コンサル会社に対して支払うコスト面は十分回収できたのではないかと感じられます。ティーエスケーさんには熱意のあるプレゼンテーションを見せていただきました。

臨時総会等

特に、総会前の合意形成が大事になりますが、アルテヴィータでは、「広報業務の専門委員会」が、理事会と修繕委員会と管理会社とを結ぶ、素晴らしい活躍をしております。隔月発行のマンション内広報誌により、マンション内での合意形成が円滑に運ばれています。
 理事長一人のワンマン経営では、マンション運営は成り立ちません。理事長は、日頃から、専門委員会との信頼関係を築く事が何よりも大切です。やや実務的な「根回し」のテクニックですが、新任理事長には、値上げ・借り入れなどの総会での重要決議のために、管理会社等を通じて、1期~5期前の「先輩理事長」との打ち合わせの場を設けたのですが、これが有効でした。
 元理事長のサポート有無は、臨時総会決議の場で住民から「値上げ反対!」の大合唱をもらうのと、それらの反対の大合唱を「まあまあ抑えて、必要な事ですから」と言ってくれる心強い仲間が、理事側ではなく住民側の席に居るのとでは全く違います。総会で矢面に立つ理事長は、誠実さと、かつ、根回し上手さを求められる場面ではないでしょうか。

マンション財政・財源について

 民間マンションの場合、恐らく新築マンション分譲時の、デベロッパーからの配布説明資料には、「年度別の修繕積立金の必要増額プラン」のようなものが、重要事項説明と共に配布されているかと思います。大規模修繕工事着工までに、各期の理事会で順次必要額の増額値上げがなされているマンションでは、財政面の心配はないのかもしれませんが、結局のところアルテヴィータでは、修繕積立金のかなり大幅な値上げと借り入れを実施するに至りました。
 H23年に国土交通省から発表の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」、に記載されております、「戸あたり必要負担額:床面積平米当たり135円」の数字は、値上げの住民説明会でも、また、住宅金融支援機構での融資借り入れ交渉でも、とても大事な根拠数値となりました。総会に臨む議案としては、「理事役員の役員報酬の廃止」とセットで議案上程し、うまく運ぶ事ができました。
 値上げと借入の総会決議が取れた後、再度住宅金融支援機構に掛け合い、機構からの「融資承認書」を受け取り、5月連休明け頃、東京都のマンション補助金制度である、利子補給の申請枠368戸の枠取りをしました。機構への保証料支払いは必要ですが、実質ゼロ金利でお金を借りられるようにするためには、逆算して4月頃には総会決議を踏むのがコツです。ぼやぼやしてると、東京都の利子補給の枠(戸数)が申請順なので、都の予算が無くなります。

工事の難易度

 タイル剥落問題を受け、A棟壁面タイルだけ、「ピンネット工法」を採用しています。全5棟のうち、棟や階によってタイルの劣化率の上下幅が大きく変動する事も、工事の難易度を上げている要因の一つです。

ピンネット工法

 コンサル会社の事前調査では、足場をかけての全階の壁面診断は出来ないため、1~2階部分までのタイル劣化調査による概算タイル補修費用予測額と、着工後の実測によるタイル劣化率から算定される補修費用との誤差が、工事財源を圧迫する可能性があり、工事進行期も、まったく気が抜けません。
 ある程度は財源や返済計画をにらみながら、緊急性の低い工事や、つなぎ補修予算で、第二回目の大規模修繕工事に回せる可能性のある項目は切り捨てる判断、決断も求められます。
 理事長は工事の技術的な問題は専門家や修繕委員会のサポートを信頼し、財源の金策問題に頭を使い、早めの決断で、工事会社や修繕委員会に迷惑をかけないよう、各チームを回していく事が、理事長の立場での「工事の難易度」と言えるかと思います。

工事監理とスケジュール

 工事監理はコンサル会社を中心に、理事会、修繕委員会で実施する体制で、着工から10ヶ月での工事完了を予定しております。

  <経年の大きなイベント      (※大規模修繕関係のみ抜粋)>
築 7年(第8期) デベロッパーの新築分譲時の長期修繕計画の再点検
築 8年(第9期) A棟壁面タイル一部剥落対応、壁面劣化診断の実施
築 9年(第10期)専門委員会として修繕委員会の発足
築10年(第11期)コンサルタント会社の選定
築11年(第12期)修繕積立金の大幅値上げ、銀行借り入れ枠取り、工事予算枠取り
築12年(第13期)工事施工会社の選定、大規模修繕工事の開始
築13年(第14期)大規模修繕工事の完了(予定)、新・長期修繕計画の策定(予定)

出典:多摩マンション管理組合連絡会NEWS
第22号(2017/2/26)から引用、編集